東海林さだおのまるかじり

昨年辺りから読み進めてるシリーズ、東海林さだおの「まるかじり」シリーズというグルメものの随筆について。

 

知った当時は自作おつまみやグルメにはまり始めた時期で、隣辺りに並んでいたのを偶然手にして、でした。作者自体の名前は古典的なサラリーマンものの漫画家、あとこちらも読んでいた椎名誠との対談もやっていたな、試しに読んでみるか。で、はまったと。内容に関しては毎回一つの食べ物やお店に関して、東海林さだお氏が思うことや体験したことを書き連ねていくというグルメ随筆。よくある感じですがこれ好き、と思った特徴もいくつかあるわけで。

まず、取り上げている題材が基本庶民的なこと。グルメものと言うと各地の紀行文的に珍品や高級品、常連のみぞ知る穴場・・・・ということになりがちですがこのシリーズはそうでない。中には「噂を聞いて体験してみた」「一杯数千円の庶民メニューだと?」というものもあれど、大半は近所の店とか、おにぎりとかだんごとか牛丼とか、しかも特に五つ星に旨い逸品とかでなく普段一般食べるそれの実態や感想に近いもの。つまり親しみが持てるし、普段のこういうものを深く考えるという以外さが面白いのです。「小松菜に学ぶ」とか「独活の人格」とか普通考え付きません。

もちろん、それを補強する著者の巧みな表現の多さもそれを手伝ってます。擬音。風呂吹き大根に箸がしずしずと沈んでいく、という風流な表現もあれば、モーモーと湯気を上げるタンメン、サックサクのとんかつといういかにも旨そうな描写。後者のトンカツに関しては同じ記事内で十数回も「サクサク」とか「サクカツ」と繰り返してみたり。発想的な描写も目から鱗です。「牛タンを舌で味あうというのは舌と舌同士、つまりお互いに気持ちの良いところを知っている同性愛なのだ(概要)」とかに至っては。

また、著者もかなりの年配者ながら年寄りっぽい古臭さを感じないのも好感です。普通明らかな形でないまでも、「俺はこんなこと体験したんだぞ、昔の苦労は・・・・」みたいな雰囲気出たり、ややもすると説教臭くなり、そうでなくても真面目に文章が堅くなりすぎたり、となりがちですがこのシリーズは文章は平易明快、先ほどまで説明した庶民的な題材と擬音の多さで大変嫌味なく読みやすい。「説教」っぽい記事でも半分ギャグっぽいしょうもないもの(フルーツサンドだと?そこに直れ!・・・・食べてみたら案外いけるな)だったり。その反面考察の深さや表現の多さは年齢ゆえの貫禄も感じさせ、いい歳のとり方をされてるなと思うことしきり。

更に、既にあるものだけでなく「体験してみた」「実験してみた」系のチャレンジ系記事も面白いです。ある名店に豆腐一丁丼があるというので自作してみてその扱いや味わいを考察。一人花見・いじけ酒。この歳になって初めてコンビニおでんを買う。突然「梅干一個でどんぶり飯一杯食べる」「そばつゆでなく水でそばを食う」「冷やし中華を温めてみる」「クラフトビールで温めて飲むものがあるというので普通のビールも温めてみたが良く分からない味だった」などなど。

これら、何かに似ていると思ったら普段愛読してる「デイリーポータルZ」に似た空気感じるのですよね。実際あそこに紛れ込んでも案外違和感ないぐらいに。その点が私が気にいった要素でもありますし、デイリーポータルZ」よく読む人ならまた特におすすめではないのかな、と思います。